神奈川新聞に掲載された文章

 

 平成23年3月19日神奈川新聞・「自由の声」欄に院長が投稿、掲載されたものです。

「広く痛みを分かち合いたい」

 未曾有の大震災で、犠牲になられた多くの方々や被災者には、心からお見舞い申し上げます。日本が直面したこの危機に対し、一市民であっても懸命に立ち向かおうと思われた人も多かったのではないかと思います。
 例えば、一人ひとりの節電の心がけが被災者を励ますことになるなら、通勤の苦労や夜の暗闇、寒さに耐えることも、前向きに捉えて頑張ろうという気持ちになります。
 しかし、震災以降の東京電力の対応には、怒りを覚える市民も少なくなかったのではないでしょうか。災害だから仕方ないだろうと言わんばかりの、幹部や広報担当者の記者会見からは、福島原発の事故や災害の現場で、命がけで対策や復旧に携わる社員や消防、自衛隊員らの苦労が伝わってきません。当初、計画停電の区割りに被災地を含めるなど、言語道断といってもいいでしょう。
 被災者、また救援されている人たちのために、私たちは広く痛みを分かち合いたいと思います。
 節電も、被災者の心に明かりをともすエネルギーの一つになることを信じ、行動しましょう。

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 平成18年に、横浜市歯科医師会が神奈川新聞に、「口の健康 体の健康」という健康コラムを30回ほど担当しました。その第9回から第12回を、院長が担当しました。 内容は、現在においても十分に通用するものです。

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「口の健康 体の健康」9 平成18年5月29日神奈川新聞掲載    

虫歯を科学する① 
   
歯科で虫歯を治療したのに、何年かするとまたできてしまう。さらに大きく削って治療する。いつか歯がなくなってしまうのでは、と心配になりますよね。
「歯みがきだって、ちゃんとしてたのに・・・」 
と、歯を失ってから後悔しないように、ここで少し、虫歯について科学してみましょう。
では初めに、重要なキーワードをふたつ。脱灰(だっかい)再石灰化(さいせっかいか)ということばです脱灰とは酸によって歯の表面のカルシウムなどが溶け出すこと。再石灰化とはそれら歯の表面に再びとり込まれ結晶化することをいいます
口の中のミュータンス菌を始めとするいくつかの細菌は、食物を分解して作った酸によって、歯を脱灰させ虫歯をひきおこします。虫歯は砂糖が原因、と単純に考えていませんでしたか。
では、食事のたびに脱灰によって虫歯がどんどん進行してしまうのかというと、もちろんそうではありません。歯は唾液によって守られているからです。唾液は歯の表面の酸を洗い流し、成分のカルシウムなどが、再石灰化を促します。
つまり、歯の表面では、脱灰と再石灰化が常に行われているのです。健康な口の中では、両者のバランスがうまく保たれていて、虫歯にはならないわけです。
よく「虫歯は自然には治らないから、早期発見、早期治療が大事」といいますが、これは本当でしょうか。
歯磨きのあとに、表面をよく乾燥させてみると、根元のあたりが白くなっていることがありませんか。これが、初期の脱灰病変です。しかしその後の管理次第で、再石灰化により元の透明さをとりもどし治ってきます。つまり、自然治癒もありえるのです。
さあ、虫歯を科学することで、予防ためのシナリオが見えてきました。
脱灰を減らし、再石灰を促すことで、虫歯を予防できそうです。
各地の歯科医師会では、六月第一週を「歯の衛生週間」とし、さまざまなイベントを行います。

 横浜市歯科医師会でも六月四日、みなとみらいクィーンズスクエアにおいて、無料歯科健診を行います。歯医者さんと気軽に話してみませんか。

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「口の健康 体の健康」10 平成18年6月12日神奈川新聞掲載
 
虫歯を科学する   
 もう少しミクロの世界の話を続けます。大切なキーワードは、脱灰()再石灰化(さいせっかいか)でした。虫歯予防のためには脱灰を減らし、再石灰化を促してあげればよいというシナリオでしたね
 まず、脱灰について。ここでのポイントは、バイオフィルムと生活習慣病です。 
バイオフィルムとは聞き慣れないことばですが、キッチンの流しの三角コーナーにつくぬめぬめとした膜、これもバイオフィルムです。固体の表面に付着した細菌やその産生物からなる複合体のことをいいます。
口の中のミュータンス菌は食物を分解し酸を作るとともに、砂糖を材料にして、ネバネバしたのり状の物質をつくることができます。これがつるつるとした歯の表面に細菌がとりつく足場となり、多種の細菌を引き寄せ、バイオフィルムが形成されます。そしてこの膜の中で、細菌の作る酸が留まることで脱灰が進んで、虫歯となるのです。
もう、ピンと来ましたね。そうです、虫歯を防ぐには、このバイオフィルムを取り除けばいいわけです。
ただし、歯磨きのようなホームケアだけで、このバイオフィルムを取り除くのは困難です。膜は頑固で抗生物質などの薬も効きません。虫歯だけでなく歯周病や肺、心臓、血管などの、全身疾患の原因にさえなるといわれているほど悪玉でもあります。
そこで、歯医者さんでの専用の器具による清掃(PMTC)のような、専門的な処置が必要になってきます。これについては、虫歯予防の中でもう一度詳しく触れることにします。
今歯医者さんには、虫歯、歯周病、入れ歯などの治療で通う患者さん以外にも、PMTCなどによってバイオフィルムを定期的に除去することを目的に通う患者さんがいます。
歯科医院も、痛くなってから行く所から、痛くならないように行く所へ変わってきているのです。
家庭で行う歯磨きなどのホームケアと歯科医院で行うプロフェッショナルケア。バイオフィルム除去のための、車の両輪と言えそうです。

次回はもうひとつのポイント、生活習慣病についてです。

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「口の健康 体の健康」11 平成18年6月26日神奈川新聞掲載
 
虫歯を科学する③
 
思い出してください、虫歯予防のシナリオ。大切なのは脱灰(だっかい)を減らし(さい)石灰化(せっかいか)を促すことでした。今回は灰を減らすもう一つポイント、生活習慣病についてです
生活習慣病とは、生活習慣が原因で発症するいくつかの病気のことを言います。「虫歯が、糖尿病、高血圧症、痛風といった生活習慣病と同じ?」と不思議に思いませんか。
虫歯は前回説明したように、口の中の細菌によって作られるバイオフィルムを原因とする感染症という側面と、今回お話しする食生活や歯磨きといった生活習慣を原因とする生活習慣病としての側面の、両方を併せ持っています。虫歯予防を、バイオフィルムとの戦いだけに単純化できない難しさがここにあるわけです。
自分の食生活を想像してみてください。口の中は食事の度に酸性になり、その度合いがある限界を超えると脱灰が始まります。三度の食事だけならよいのですが、ダラダラ食いで食事の時間が長かったり、間食の回数が多かったりすると、トータルの脱灰の量が多くなり、再石灰化では追いつかなくなります。
一番いけないのが、寝る前の飲食。睡眠中の口の中を長時間酸性にし、脱灰を進行させてしまうからです。こうして、誤った食生活が脱灰を蓄積させ、虫歯を悪化させるのです。
また、年代特有の生活習慣と虫歯のリスクにも相関関係があります。
永久歯が生えて間がない小学生時代は、飲食回数が増え、甘いものも手に入りやすくなります。 
中高生時代は受験勉強による生活習慣の乱れや間食の増加が問題ですし、塾やクラブによって治療も中断しがちです。
成人期はストレスや夜ふかし。特に妊娠中は内分泌機能の変化に加え、飲食回数が増加し、食べ物の好みの変化や偏食、つわりも影響します。
高齢期は老化や薬による唾液分泌量の低下、虫歯に対する抵抗性の低い歯根の露出など。人生の中でも年齢によって虫歯リスクは大きく変わってきます。

虫歯が生活習慣と大きく関わっていることが、もうお分かりになったでしょう。脱灰を減らすためには、バイオフィルムの除去と規則正しい食生活がとても重要なのです。

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「口の健康 体の健康」12 平成18年7月17日神奈川新聞掲載
 
虫歯を科学する④
 
歯科医院のドアを開けた時にとびこんでくる、あのドリルのキーンという音や特有のにおい。想像しただけで身がすくむ人もいるのでは。
しかし、現在歯科医院に通院している患者さんは、そういうドリルの必要な人ばかりではありません。定期的にバイオフィルム(歯の表面につくとれにくい細菌などの膜)を除去し虫歯を予防するために、PMTC(専用の器具による清掃)のような歯のケアを受けに来ている人たちです。
 虫歯はバイオフィルム感染症と言ってもいいでしょう。予防のためには、歯医者さんに口の中の状況をよく把握してもらい、生活習慣に対する指導も受け、定期的に口の中をきれいに管理しケアしてもらうことが大切なのです。それがバイオフィルムの定着を防ぐことになるからです。
 具体的には、回転器具の先にラバーカップという歯を傷めない清掃具をつけ、フッ化物入りのペーストで歯の表面を研磨するようにきれいにしていきます。PMTCが終わると、歯の表面はつるつるになり、指できゅっきゅっと音がするほどです。痛みもなくむしろ気持ちがよいので、眠ってしまう人もいます。
フッ化物は歯の表面に作用し再石灰化を促し、歯の質を強化してくれます。その結果、酸に対する抵抗性を高め脱灰を防いでくれるのです。フッ化物は虫歯予防の強力な武器といえるでしょう。
こうしたPMTCを定期的に繰り返すことによってバイオフィルムの定着を防ぎ、再石灰化を促していくわけです。
今、こうした定期的な歯のケアを行う歯科医院が増えてきています。私たち歯科医にも、今までの歯科治療はあまりにも病気の事後処置に偏っていたという反省があります。歯科の先進国である北欧などの国々では、従来の削ってつめる歯科治療(キュア)から、歯を健康に保ち生涯にわたって健康のパートナーとなる歯科医療(ケア)へと転換してきているといいます。
キュアからケアへ。みなさんの「健康でありたい」を、口の健康からお手伝いする歯科医療なんて素敵ですよね。
病気になってから行くか、病気にならないように行くか。あなたはどちらですか